グラベルロードとは
近ごろの自転車専門誌やウェブサイト、SNSにて”グラベルロード”という文字をよく見かける。「普通のロードバイクとどう違うの?そもそもグラベルって何?」そんな疑問を抱く方も少なくはないだろう。
”グラベル”とは、日本語で砂利のこと。すなわち”グラベルロード”とは、その砂利道を指し、走る為のバイクのことを巷ではグラベルロード(正式にはグラベルバイク)と呼ぶ。
ヨーロッパではグラベルサイクリング、アメリカではサイクリングはもちろんだがグラベルレース(グラベルグラインダー)もトレンドとして新たなバイクジャンルの地位を確立している。
本記事では、グラベルロードについて解説していく。
グラベルロードの特徴
グラベルロードには、明確な規格や規定はない。
簡単に言えば、既存のロードバイクよりも砂利道や林道などのオフロード(未舗装路)を走る事に重きを置いた車種だ。
長距離を快適に走れるエンデュランスロードバイクのような、前傾を抑えて肩や首に負担の少ない乗車姿勢、急な坂道も無理なく上れるマウンテンバイクのような軽いギヤ、バイクパッキングも可能な積載能力をグラベルバイクは備えている、まさに自転車界のSUVだ。
そして、その誕生にはロードバイク用ディスクブレーキ、軽量で幅の太いタイヤの登場など、近年のロードバイクにおける技術の進歩が土台にある。
では、シクロクロスバイク(以下CXバイク)はグラベルロードではないのか?と疑問を持つ方もいるだろう。
確かにグラベルバイクの礎になっているのはCXバイクであるが、決定的な違いは、グラベルバイクは基本的に競技用ではないこと(2021年頃から競技用グラベルモデルも登場はしているが)。そして、ロードバイクやマウンテンバイク、ツーリングバイクなど、様々なカテゴリーのバイクの要素が入って構成されている。
グラベルロードの特徴をまとめると以下の通り。
- 幅の太いタイヤでオフロード走行が楽しめる(35mm~50mm未満)
- 長距離でも疲れにくく、オフロードでも安定して走れるフレーム設計
- 長距離走行に優れたフレーム設計
- バイクパッキングにも適した荷物の積載能力
”グラベル”という単語に捕らわれてしまうと、そうした道で走らなければ楽しめないと思ってしまいがちだ。
しかし、細めのタイヤに履き替えれば、一般的なロードバイクに迫る走りができる機動性の高い(ロードレースには適さないが)万能バイクと言える。
Domane・Checkpoint・Boone比較
では、TREKからラインナップされている、Domane・Checkpoint・Booneを比較してみよう。
Checkpoint
TREKからラインナップされているグラベルロードがCheckpointだ。
2022年モデルから大幅なモデルチェンジを遂げ、グラベルレース向きの「SLR」グレードも新登場した。
バイクパッキング向けのミドルグレード「SL」と、価格を抑えたエントリー向けのアルミモデル「ALR」もそれぞれモデルチェンジを果たし、走行性能はもちろん、積載量の進化やジオメトリーの変化など、大幅なアップデートを遂げた。
Domane
振動吸収性に優れ、長距離走行に向いているエンデュランスロードバイクのDomane(ドマーネ)。
オンロード(舗装路)走行がメインのモデルだが、最大タイヤ幅が38cにIsospeed搭載&振動吸収性に優れたジオメトリーを備える。多少のグラベルであれば通常のロードバイクよりも走ることができ、CheckpointやBooneと比べると、最もオンロードでの性能が高いモデル。
Boone
TREKのシクロクロスバイク、Boone。
2022年モデルからモデルチェンジを果たし、エモンダの空力性能を取り入れさらにパワーアップ。
DomaneやCheckpointと比べると、Booneはシクロクロス専用のピュアレースバイクである。軽量性、操作性に優れており、テクニカルなオフロードの周回コースを、短時間高強度で走るシチュエーションに適している。
低重心・直進設計で高いオフロードの走破性
さて、ここからはグラベルロードの特徴をもう少し掘り下げてみよう。
自転車の走行特性を決める1つの要素が、フレーム各部の寸法(長さや角度)を表す、”ジオメトリー”だ。
細かな数値は割愛するが、グラベルロードは他のモデルよりもホイールベース(前後ホイールの間隔)が広く、かつBBドロップ(フロントギアの装着位置)が低い。低重心で直進性の強い設計は、走りの機敏さ損なう面もある。しかし、Checkpointは”プログレッシブジオメトリー”と呼ばれるホイールベースを伸ばしたジオメトリーにより、良好なバランスを実現。重心の低い設計でも、直進で高い安定性を実現している。
また、ハンドルの操作性に影響する”トレイル(ハンドルの操作軸を伸ばして地面に接地する点と前輪タイヤの接地中心点の間の距離)”と呼ばれる項目がグラベルロードは大きい。この値は大きくなると直進安定性が高まり、逆に値が小さくなるとふらつきやすくなる(ハンドルの操作性が軽い)傾向にある。トレイル値を大きくすることでふらつきを抑え、(太いタイヤのおかげもあり)オフロードでの不安定性を緩和し、快適な走りを実現している。
3種のバイクから見るジオメトリーの違い
同じくオフロード走行を想定したシクロクロスバイクのBooneは、ホイールベースがチェックポイントよりも短く、BBドロップは高い。Checkpointよりも重心が高いため、安定感は失われるが、その代わりに加速が軽くなる傾向がある。加えてBooneのトレイル値は低く、ハンドルの操作性は機敏だ。
つまり、Boone含めシクロクロスバイクはオフロードを走るバイクだが、あくまで競技に特化しているため、基本設計はレース用のロードバイクに近い。ライダーのテクニックも必要となるため、オフロードにおける限界という点では、グラベルバイクには敵わない。オフロードを舞台にする2つのバイクだが、その性格はずいぶんと異なる。
そしてエンデュランスロードのDomane。これは前述した2モデルとの中間にあるようなジオメトリーだ。
ホイールベースはBooneと同じだが、BBドロップが最も低く、重心もBooneより低い。その一方でトレイル値はピュアロードバイクモデルのÉmonda(エモンダ)にかなり近い数値だ。
ジオメトリーだけを見れば、舗装路での安定感を求めたロードバイクだ。と同時に、グラベル向きの性能も与えられている。
Booneよりもグラベル向きのDomane
もちろん自転車の特性はジオメトリーだけで図ることはできない。
ホイール径、タイヤ幅、ハンドル幅などパーツの仕様も関連する。
グラベルロードは、ロードバイクで一般的な700cのホイールサイズの他に、それよりも一回り径の小さな”650B”(27インチ)と呼ばれるタイプを装着できる物も存在する。ホイールの径を小さくすると装着できるタイヤ幅は太く、なおかつ重心も低くなるためオフロードでの走破性が高まる。路面とタイヤの接地面積が増えることで、より快適なオフロード走行ができる事になる。
その一方でBooneなどのシクロクロスバイクは、シクロクロスの競技規則で33c幅のタイヤまでしか認められていないため、太幅タイヤを履く余裕も想定もされていない。
Domaneは38cのタイヤまで履けるため、その重心の低い設計と相まってエンデュランスロードというカテゴリーでありながら、グラベルロードとしてのポテンシャルも持っている。もちろんグラベルの走破性はもちろんCheckpointには及ばないとはいえ、軽度なグラベルなら十分に楽しむ事のできる懐の深さを持つバイクだ。
ハンドルバーについてはいずれもアールの付いたドロップハンドルだが、グラベルロードはオフロードでの安定性・操作性を高めるためにロードバイクよりも横幅が広く、ハンドルの側方がハの字に広がり下側の幅が広い”フレア形状”と呼ばれる仕様のハンドルを装備することで、オフロードでの安定性をさらに高めるモデルもある。
また、バイクパッキング用のバッグを最適に自転車に装着できるようにフレーム設計がされているため、キャンプ道具を持ってのツーリング、その気になれば長期の自転車旅行に無理なく出かけることもできる。Domaneでもバイクパッキングはできるが、積載量やその効率ではCheckpointの方が上手だ。
究極のサイクリング車
グラベルロードはこの10年で登場したカテゴリーとあり、まだまだ進化の最中だ。
マウンテンバイクさながらの太いタイヤを履けるようにして、グラベルの走破性をさらに高めたもの、グラベルレースという競技で勝つために速さを追求したもの、さらにはバイクパッキングなどのツーリング要素を高めたものなど、ロードバイクと同様に細分化されており、一括りにできない部分もある。
とはいえグラベルバイクの大きな特徴である多用途性は、それ1台があればサイクリストの遊び方を大きく広げてくれるものだ。
そして都会でも、視点を変えれば生活圏にグラベルは潜んでいる。河川敷やサイクリングロードの脇道、郊外の緑地や里山(自転車で走行できるか確認した上で遊ぼう)など、ちょっとしたオフロードを走るだけでも、冒険的な感覚を得られるはずだ。
グラベルロードは走るフィールドや遊び方の制限が少なく、自転車遊びの原点にして究極と言われる”サイクリング”を思い切り楽しむことのできるバイク。レースの着順やタイムにこだわるサイクリストを除けば、最も付加価値が高く、一般のサイクリストにとって”等身大の”ロードバイクと言えるだろう。